福岡市美術館 ポルト・リガトの聖母
先日、福岡市美術館へ行ってきた。
常設展にダリの「ポルト・リガトの聖母」の油絵が飾られていた。僕はダリの作品が福岡市美術館にあることは全く知らなくて、何の気なしに絵の前に立った。
それは写実的でありつつ、どこまでもシュールだった。
ダリと言えば溶けて歪んだ様な時計や、人とも動物とも取れない奇妙なオブジェクトが一般的に有名だと思うのだが(僕がそう思い込んでるだけな気もするが)、「ポルト・リガトの聖母」はまさに実写と見紛うほど写実的なマリアと幼いイエスが描かれている。
解説文によれば、そこに描かれたマリアの顔はどう見てもダリの最愛の妻「ガラ」であるとのことで、ここにはキリスト教世界的な意味での不道徳と、核に支配された残酷な世界があるという。
僕はすっかりその絵に見惚れてしまって、ぼんやりと10分くらい眺めていた。
見れば見るほど不思議で、脳みそがどうにかなりそうな気持ちだった。悪夢的で非現実的なオブジェクト。そして中央に配された、あまりに写実的なマリアとイエス(二人の胸のあたりはぽっかりと四角く穴が空いていた)。
8Kの映像は、人間の脳の処理が追いつかず、「本当にそこに存在するもの」と認識し、立体に見えると聞いたことがあるが、この絵も正にそれだ。
額縁という窓のすぐ向こうに、マリアとイエスが浮かんでいる様な。ダリの画力の凄さにただただ感動させられてしまった。
丁度、絵の目の前に椅子があったので、僕はそこに座って、またぼんやりと眺めることにした。
しかし、どうも既視感がある。そう思っていると気がついた。
「J.O.B Orchestra」のジャケットだった。
ちょっとしたアハ体験を味わい、外に出ると、日が沈みかけていた。大濠公園は緊急事態宣言だったが、それなりに人がいて、それなりの騒がしさだった。
公園が騒がしいという、ごくごく当たり前のことひとつが気になってしまう。早くコロナなんて終わって欲しいなと思いながら、僕は家路についた。